ペカチカほいほいのブログ

ギャンブル歴50年、浮き沈み人生で出会った楽しい出来事の数々。

ベンチャークズ屋の社長「思い知らされる」の巻

◆これからは提案型営業じゃないとダメだ・・なんて
どっかの講演で聞いてきて「口走る」3代目社長がいます。


◆我が社の営業方針にはイノベーション(革新)が必要だ・・なんて
中途採用の役員が(俺が前いた会社はこうやってた)の代わりに言います。


◆これからはソリューション(問題解決できる)カンパニーが求められる! 
役立たずの経営コンサルタントが(おまいら意味わからんだろ)と
ドヤ顔で具体案も無いのに囁きます。


現場の社員は困ります。
だから~具体的にどうすればいいのよ?
あんたがやってみせなさいよ~
だって・・・どうすればいいか・・解らないんだもん。



ある会社が「製造工程」で発生する廃棄物の処理に困っていました。
毒劇物に分類される「廃液」です。発生量は月に300t
その「廃液」の処理コストが毎月800万円  年間・・約1億円です。
 


毎年秋に開催される「CEATEC JAPAN」
日本最大級の「IT関連の国際見本市」です。


オッサンは出品してる企業の中に
「クズ・ゴミの処理」に困ってる企業は無いかなあ~と
毎年訪問します。飛び込み営業の一種ですね。


某大手電機メーカーのブースで、
展示されてる商品をみながら
説明を「興味あるフリ」して聞いてました。


一通り説明が終わった頃、その説明してくれた方に名刺を出します。


名刺の表は「環境リサイクルの総合情報商社」のオッサンの名前
名刺の裏は「大手取引先企業名」を書き並べてました。


※弱小企業の飛び込み営業は「門前払い」ばっかしです・・・
それを少しでも減らすため、話を聞いてもらうために
ウチはデカイ会社と取引してるから「大丈夫よ!」という意味です。
「いい会社と絶賛取引中」なのよ・・・そんなハッタリでもあります。


こう聞きます・・・
「この製品作るときに出るゴミの処理で困ったりしてませんか?」


先方様・・・・名刺をじっくり見た後に・・・
「実は・・廃液の処理で困ってます」ときた~~~!! 
リーチ一発ツモ!!


オッサン
「どのような廃液ですか?」
先方様
「廃酸です」


オッサンの頭がフル回転で推測を始めます。
ここは半導体メーカーだ。半導体メーカーで出る廃酸と言えば
「シリコンウェハー」のエッチング廃液だ。
「硫酸」「硝酸」「塩酸」「フッ酸」とこれらがミックスした「混酸」だ


オッサン
「それウェハーのエッチング廃液ですね?・・・」
「硫酸」「硝酸」「塩酸」「燐酸」「フッ酸」と「混酸」でしょう


先方様・・・この切り返しに「ずいぶんタマげた」様子です。
「このオッサン何者? 結構詳しいじゃん、ちょっと話聞いても損はないかも」
絶対にそう思ったはずです。


さらにタタミかけるオッサンです。
「それは相談に乗れると思います(いい案がありますってこと)」
「話を詳しく聞こうじゃ・・・あ~りませんか!!♬」


◎突然ですが・・オッサンへ質問です!
▲はいどうぞ!
◎廃液処理なんてブログ初登場ですがやったこと有るんですか?
▲ありません! が、アイディアは前から持ってました。 
◎ヤレルんですか? 
▲わかりません!
◎得意のデタラメ言って引っかけるんですね
▲そう取っていただいても結構ですが、ヤレル根拠もあるんです。



これねえ、オッサンが質問した相手が大ピンポン!だったわ。
製品技術の方だったけど、※ゼロエミッションも担当してたんです。
※ゼロエミッションとは
工場から出る廃棄物をすべてリサイクルして
「ゴミをゼロ」にする取組のことで、
当時の大手企業は部署を横断してWG(ワーキンググループ)を作り
「ゴミゼロ」を目指してました。


食い付き始めた先方さんです・・・
オッサンが簡単に「お役に立てそう」と言ったもんだから
近くにいた「電子〇〇事業部」の若手社員を連れてきた。
この方もゼロエミッションWGのメンバーだって。


最初の先方さんが
「彼の方が私より詳しいので彼と話してください」


電〇部の彼と商談席で1時間も話すことになりました。


※オッサンは起業後、主として「レアメタル・レアアース・電子部品」の
リサイクラー(かっこいい呼び方ですね)だったんですが


サラリーマン時代の隣の部署が化学部で「酸」を販売してたんです。
隣の連中の電話やら打合せやら盗み聞いて、少しだけ酸の知識がありました。
門前ならぬ「席隣」の小僧が習ってない「化学」の知識を
知ったかぶりして喋ってるわけです。
オッサンの演技力たるやアカデミー賞モノです。 
一つ間違えると詐欺とも言えますけど。


彼らは完全に口車に乗ってきました。
事業部まで来いといいます。
こっちも望むところです。


先方さん
「関連部署のメンバーと調整して打合せ日程を決め連絡する」
CEATECをウロウロしてた野良犬が棒に当たった日でした。


日付は決まりました。10日後です。


ちょっとイヤな作業が必要でした。
ヤメタ会社の同期に連絡を取ります。
「おい山田!、化学部の〇〇課長いるかい?」


大所帯の化学部の〇〇課長さんはオッサンと懇意でした。
彼なら協力してくれるだろう。
どうしても協力をお願いしないとなりません。


オッサンは「この酸」のリサイクルアイディアは持ってるけど
売り先、運搬方法、相場など化学業界の知識は全くありませんから。



彼以外の化学部スタッフは全員がオッサンのこと大嫌いです。
彼以外に協力は頼めません。
なんてたって化学部の管掌役員の「専務」から
オッサンは退職勧告受けたんですから。



〇〇課長が協力してくれないと「この話」は成功しないんです。
頼みの綱でございました。



〇〇課長が電話に出てくれて「話を大筋で理解」してくれました。
「OK、面白そうだ、協力する」
「ウチも不景気で新規の話なんて全くないし有難い話よ」
「しかも酸のリサイクルなんて業界初の試みだわ、最高に面白い」
※この会社「酸の販売」では世界一です。



〇〇課長とオッサンの2人で「あの会社」へ行きました。


先方からゼロエミッションWGのメンバーと
東北の工場から「このため」に出張した方も出席です、その数15名。



プレゼンテーションは始まりました。


我々の提案は「実にシンプル」です。
硫酸、硝酸、燐酸は化学肥料の原料へ転用する。
塩酸、フッ酸、混酸はステンレスの表面処理に再利用する。
貴社で発生する廃酸は全量リサイクル可能と思われます。
ただ、すべてサンプルをいただいて検査と実証試験を行った後
正式な見積もりを出します。
サンプルの採取をお願いします。



オッサンの人生で・・・あれだけ盛り上がったプレゼンは
後にも先にもこれだけと思います。
先方15名様・・・・大拍手です。



先方は大喜びなんですが・・・
こっちは大きな問題を2つ抱えたままでした。


1つ目の問題がこれです。
酸のマーケットは独占されたマーケットです。
酸を製造する企業、扱う中間商社、使用する需要家・・・
これは戦前からほとんど変化しません。
流通量は膨大なんですが、古くて狭いマーケットです。


中国・東南アジアが急激に伸びようとする時期で、
海外では酸の需要がどんどん伸びて、不足する状況ですが
国内の酸使用量は景気停滞が続き年々減少していました。


酸は余っている状況なのに
困ったことに生産量は落とせないんですね。


酸は副産物なんです。製鉄高炉、銅精錬、石油精製、
鉄を造る、銅を造る、ガソリンを造ると酸が取れちゃうんです。
造りたくなくても出てきちゃうんです。


業界はですねえ・・・
造った酸を少しでも国内の需要家に押し込みたいんです。
リサイクル酸の使用なんて「とんでもない」ことなんです。



オッサンのこのリサイクル提案は
肥料メーカー向けの「ヴァージン酸」のマーケットを奪うんですね。
各方面から「良い目」で見られません。
「おいおい余計な事しないでくれよ」
そんな状況です。



一番矢面に立つのは〇〇課長となりました。
彼はあの会社では珍しく
「優秀で行動力があって部下から慕われる」人間です。
業界からマーケットを混乱させると「イヤミ」を言われたようですが
なんとか「落としどころ」を見つけてくれました。
心より御礼申し上げます。




さてもう一つの問題
この酸の発生する工場は東北地区にありました。
この工場が稼働を始めた当時から「この酸」を処理してきた会社があります。
酸の処理では有名な会社が2社入り込んでました。



どこで調べたかわかりませんが、オッサンに電話がきます。
脅しもあれば、協力要請という名の「泣き」も入った。


脅されるのは嫌いです。すぐ逆脅しをかけます。
「今の話は録音しといたからな、メーカーに聞かせてやるわ」
これで決着つきます。
向こうは「手のひら返して」
お願い!運搬だけでもさせて、と泣きます。


オッサンに言わせれば・・・・
「おまいらがロクな提案もしないでよ、中和処理だけして・・」
「メーカーの立場になってコスト削減に知恵を絞るでもなくよ」
「高い処理費踏んだ喰ってよ、ぼ~っとしてるのが悪い!」



ビジネスなんてそんなもんです。誰かが取れば、誰かは失うんです。


最終的に廃酸発生量300t中200tをリサイクル転用できました。
残り100tは品質に問題があって使用できないことにしました。
100tは今までの業者に処理してもらうことにしました。
既存の処理会社も「商権」は繋がったわけです。繋いであげたんです。


実際270tは使えないことも無かったんですが、
酸業界との「落としどころ」が200tだった。
月間1万tの硫酸を使用する肥料メーカーに購入してもらった。
バージン酸の1/10の価格で



さてこの「提案型ソリューションリサイクル営業」の勝者は・・・
「そのメーカー」と「〇〇課長さん」と「肥料メーカー」です。


「そのメーカー」は廃液処理コストが1/3になりました。


〇〇課長さんはなんと「そのメーカー」が新設する工場に納入する
硫酸、硝酸、塩酸の新規契約を勝ち取った。


肥料メーカーも大喜び!
バージン酸の1/10の価格で「超高品位」の硫酸が手に入るんですもん。
いいですか皆さん・・・使用済の廃硫酸と言いますが・・・・
バージン酸より不純物の少ない酸なんです。電子工業グレードと言います。
廃液でもバージンよりキレイなんです。ありえないでしょ?



オッサンはというと・・・・金の抜きどころが無いんですよ。


肥料メーカーに売る「リサイクル硫酸」の利益は
タンクローリー1台動かして3000円です。1台分で3000円儲かるんです。
タンクローリーを月に20台動かして、6万円です。
この6万円を〇〇課長さんと半分こして3万円です。
タンクローリーの手配、肥料メーカーへの納入連絡、伝票計上、
結構な事務作業が発生しますね、全部〇〇課長の部下がやるんです。


「もういいです・・・・儲けは全部〇〇課長さんとこで計上してください」


「いつかオイシイ話があればいっちょ噛ませてください」



みなさん、
提案型ソリューション営業でイノベーションを起こした
オッサンって・・・・なんだったんでしょうねえ・・


喜んでいただけたから・・・・幸せですけど、達成感もあるんだけど。


なんか・・・・さみしさを感じました。


そういえば・・・・メーカーの工場長から「感謝状」貰ったわ。


〇〇課長と東北まで10回出張して、美味しいお酒をいただきました。
もちろんオッサン持ちです。